【column】第4回 改正民事執行法

 

令和元年改正・民事執行法について

 令和元年5月、民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律が成立し、令和2年4月1日より施行されました。
本改正により、民事執行手続の実効性確保を目的とした重要な改正がなされましたので、企業法務に影響のある改正について概要をご紹介いたします。


1.改正事項

 本改正の概要は次の通りです。
扶養義務等に係る金銭債権の取扱いなど一部例外については割愛し、概要をまとめております。



 以下、改正事項のうち企業法務において特に重要な改正である、財産開示手続と、情報取得手続についてご説明いたします。

 

2.財産開示手続の改正

 

⑴ 財産開示手続は、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続で、債権者の申立てにより、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続です。

⑵ 財産開示手続の申立てには、債務名義(判決等、強制執行によって実現されるべき債権の存在及び範囲を公的に証明した文書)が必要です。
必要な債務名義の種類について、改正前は確定判決や和解調書など一定のものに限定されていましたが、今回の改正により制限がなくなり、控訴期間が経過していない確定前の仮執行宣言付判決や、執行文言付きの公正証書による申立ても可能になりました。

⑶ また、改正前は、財産開示期日に債務者が出頭しないなど手続違反があっても、30万円以下の過料に処されるにとどまることから、債務者が裁判所からの呼び出しに応じず、財産状況が明らかにされることなく手続が終了してしまう例が多く見られ、実効性が必ずしも十分でない等の指摘があり、利用件数もそれほど多いとはいえませんでした。
 改正法は、債務者が出頭しないなどの手続違反に対して、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科すことができることとし、刑事罰を導入しました。これにより、財産開示手続の実効性が高まる可能性があります。



3.第三者からの情報取得手続の新設

⑴ 改正により新設された第三者からの情報取得手続は、債務名義を有する債権者からの申立てにより、債務者以外の第三者に対して、債務者の財産に関する情報の提供を命ずる旨の決定をし、この決定を受けた第三者が、執行裁判所に対して当該情報の提供をするものです。

⑵ 改正前は、第三者から情報を取得する方法として、しばしば弁護士法23条の2に基づく照会(いわゆる弁護士会照会)が利用されていました。しかし、たとえば金融機関に対して債務者の預金残高を照会しても回答しない金融機関も見られました。
 改正後は、債権者の申立てに対して、裁判所が手続実施の要件を満たしているかどうかを審査した上で、情報提供命令を発し、これにより第三者は情報提供義務を負うこととなります。後述の通り、これまで情報を得ることが難しかった不動産や給与に関する情報を取得することも可能になり、財産の調査に当たり有用な改正と考えられます。

⑶ 第三者からの情報取得手続を利用するには、債務名義を有する債権者が、対象となる債務者、情報の提供を求める相手方(第三者)、提供を求める情報等を特定した上で、裁判所に申立てを行う必要があります。
 第三者から入手できる情報の概要は、次の通りです。

ア 不動産に関する情報
 債務者名義の不動産(土地・建物)の所在地や家屋番号を取得できます。
ただし、現時点では本情報の取得手続は利用できず、令和3年5月16日までに利用可能になる予定です。
登記所から情報を取得する手続で、一度の申立てにより、債務者名義の全国の不動産に関する情報を取得することが可能になる予定です(いわゆる名寄せ)。
ただし、財産開示手続を先行して行う必要があり、財産開示期日における手続が実施された後に、本情報取得手続を取ることができます。
イ 給与(勤務先)に関する情報
 債務者に対する給与の支給者(債務者の勤務先)を取得できます。
申立権者は、養育費等の債権や生命・身体の侵害による損害賠償請求権に関する債務名義保有者に限られます。これら以外の債権者(取引債権者など)は利用できません。
申立てに当たり、市町村、日本年金機構及び共済組合の中から、情報の提供を命じられるべき機関を特定、選択する必要があります。
本情報開示手続も、不動産に関する情報についてと同様に、財産開示手続を先行して行う必要があります。
ウ 預貯金に関する情報
 債務者の有する預貯金口座の情報(支店名、口座番号、額)を取得できます。
いわゆる全店照会が可能で、支店名まで特定する必要はありませんが、照会をかける金融機関は特定する必要があります。2つ以上の金融機関を第三者として申し立てることも可能です。
本手続によらず、上記弁護士会照会により情報を取得することも引き続き可能と思われ、必要資料や手続に要する費用に違いがあります。
エ 上場株式、国債等に関する情報
 債務者名義の上場株式・国債等の銘柄や数等を取得できます。
口座管理機関である証券会社等の金融商品取引業者や銀行等が第三者(情報取得手続を取る相手方)となります。照会をかける機関を特定する必要があること、2つ以上の機関を第三者として申し立てることが可能であることは、預貯金と同様です。

4.改正が実務に与える影響

 本改正は令和2年4月1日に施行済みであり、過去に取得した債務名義を用いて改正法に基づく手続を利用することも可能です。取得可能な情報の範囲が拡大するなどしたことにより、対象財産の存否が不明であるために強制執行が困難であった事案等の解決が期待されますが、主な改正事項である第三者からの情報取得手続では、取得できる情報が限定され、また預貯金に関する情報の取得には金融機関の特定が必要とされるなど、改正法に基づく財産調査にも限界があることは留意が必要です。



以 上
文責:亀井俊裕