【column】第3回 新型コロナウイルス対応:定時株主総会の開催について

 

 本年4月に発令された「緊急事態宣言」は、5月25日をもって解除されましたが、6月総会の運営については、新型コロナウイルス対応が求められています。定時株主総会における新型コロナウイルス対応については、これまで多くの論考が発表されていますが、来たるべき総会当日に向けて、これまでの議論を以下のとおり整理しました。 


1.定時株主総会の開催時期について

 本年の定時株主総会の開催時期については、会計監査人の監査報告書の提出日、新型コロナウイルスの感染状況による来場株主の安全確保、株主総会で剰余金処分する会社においては配当基準日設定等の観点から、6月に定時株主総会を予定通り開催することが難しい場合の開催方法として、①定時株主総会の日程を7月以降に延期する、②定時株主総会を予定通り開催した上で、7月以降に継続会を実施する、③定時株主総会を予定通り開催した上で、7月以降に臨時株主総会を開催することが議論されました。下表にその概略を整理しました。

 



2.株主総会の運営上の留意点

 いざ株主総会を開催する場合には、来場株主や従業員の安全を確保するために、徹底的な来場自粛要請によって、来場株主数の制限及び開催時間の短縮等に努める必要があります。そのための対策としては、次の方法が考えられます。

(1) 来場株主数等の制限のための対策

 通常時であれば、株主に対して出席拒絶をすることや会場への来場を控えるよう呼びかけることは、その程度や態様によって招集の手続が著しく不公正であるとして、決議取消事由に該当する可能性も否定はできませんが(会社法 831 条 1 項 1 号参照)、経済産業省が公表した「株主総会運営に係るQ&A」において、感染拡大防止策の一環として、次の方法等による対応が促進されています。
httpss://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

1 事前の来場自粛の呼びかけ

2 書面又はインターネット等による事前の議決権行使の呼びかけ

3 開催する会場規模の縮小(自社会議室の活用など)

 上記Q&Aにおいて、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、例年より会場の規模を縮小することが許容されており、株主の出席者数ゼロの状態でも株主総会を開催可能とされています。但し、経済産業省の見解として「その結果として」設定した会場に株主が出席していなくても株主総会を開催することは可能との記載がされていることからすると、最初から株主が来場しないことを想定して株主が全く入場できないような場所しか用意しないことまでは許容されていないと考えられます。
 開催予定の会場が使用不可となったことにより、会場を自社会議室に変更した会社の例としては、「菱洋エレクトロ株式会社」や「ガイアックス株式会社」があります。

4 入場者数の制限
 入場者数制限の方法の一つとして、上記Q&Aにおいて、株主総会への出席について「事前登録制」を採用し、事前登録者を優先的に入場させることも可能とされています。

 事前登録を依頼するにあたり、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきことが求められていますが、その実施方法は会社ごと様々です。なお、事前登録制を採用する場合にも、株主総会当日に事前登録されていない株主が来場した際の対応として、実際に来場した事前登録者を全て収容してなお席に余裕がある場合には、一律に事前登録のない株主の入場を断ることには慎重に対応した方がよいでしょう。

 3月、4月総会を開催した会社の実施例としては、次のようなものがあります。入場者数制限の上限も会社により様々ですが、上限設定の考え方の一つとして、各社の開催会場の許容量に応じて、感染拡大防止の観点から、ソーシャルディスタンスとして2メートルの間隔を保持して収容できる人数とすることも合理的と考えられます。
・「株式会社井筒屋」:
事前登録希望者は、株主宛に郵送された「出席事前登録希望票」を返送することにより登録を申込み、出席できる株主宛に出席票を発送する。登録者数の上限は、株主の安全に配慮して、十分な会場内の席の間隔を確保することを理由として最大60人。
・「乾汽船株式会社」:
事前登録希望者はEmailで登録を申込み、事前登録の成否については株主総会の1週間前に連絡する。入場者数は、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議による「10人以上の集会への参加を避けること」との提言に基づいて、議長等も含めて10人未満、うち株主数は3名。

5 ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施
ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、株主に株主総会の開催場所での参加を認める一方で,株主がオンラインで参加することもできる株主総会をいい、ハイブリッド型バーチャル株主総会には「出席型」と「参加型」の2種類があります(経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」。
httpss://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf

「出席型」は、株主総会の開催場所にいない株主が、インターネット等を利用して会社法上の出席をし、議決権行使ができる株主総会で、「参加型」は、株主総会の開催場所にいない株主が、会社法上の出席を伴わずに、インターネット等を利用して審議等を確認・傍聴することができる株主総会で、質問や議決権行使はできないものです。

これらのうち、「参加型」の株主総会は議決権行使や質問を行わないことからライブ配信のシステムを準備できれば実施できますが、「出席型」の場合、議決権行使や質問の受付機能を設ける必要があり、新型コロナウイルスに関する様々な対応に追われている最中に、それらのシステムを準備するのはそれなりにハードルが高いため、現実的には「参加型」の採用を検討することになるでしょう。

3月総会において、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施した例としては、「出席型」は「富士ソフト株式会社」と「ガイアックス株式会社」が、「参加型」は「GMOインターネット株式会社」があります。

6 取締役等のオンライン出席
テレビ会議システムや電話会議システムのように、情報伝達の双方向性及び即時性が確保されるような方法であれば、株主総会に取締役等をオンラインで出席させることは適法にできます(会社法施行規則72条3項1号参照)。

(2) 開催時間の短縮のための対策
 開催時間の短縮のための対策として、次のような対応が考えられ、3月4月に開催された定時株主総会においても複数の会社において実施されています。

(a) 株主総会当日に会場で放映する報告事項等に関する動画を事前にホームページに掲載。
(b) 招集通知に記載されている事項は口頭での説明を省略し、招集通知の該当ページを案内。
(C) 決議方法を個別審議方式から一括審議方式に変更。
(d) 質問数及び質問時間を制限(1人1問1分以内など)
(e)議題に関する質問以外の質問は、用紙によって受け付け、後日ホームページ上で回答
 (例:楽天株式会社)

(3) その他感染拡大防止のための対策
 上記のほかに、「株主の皆様へのお願い」「総会当日の当社の対応について」として、事前に新型コロナウイルスの感染拡大防止の対応方法をホームページ等で掲載した上で、当日それぞれ掲載内容に基づいた対応がなされています。

(a)マスクの着用要請
(b)高齢者、妊婦、既往症のある方の来場自粛の要請
(c)発熱や咳等の症状がある方の自粛要請
(d)出席株主へのマスクの配布
(e)消毒液の設置
(f)入場時の検温
(g)株主懇談会等の開催の取りやめ

 なお、出席役職員がマスクをすることについては、大多数の株主の理解が得られるものと解されますが、多くの会社では、事前にアナウンスするか、議長が冒頭にマスク着用の了解を得る運用をしています。

以 上
文責:矢野亜里紗