【column】第2回:コロナウィルス対応・改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言について

 

 今月、新型インフルエンザ等対策特別措置法が改正され、新型コロナウィルス感染症も同法の対象となりました。
 同法に基づき、都道府県知事が私企業や住民に対して行うことができる事項の概要をご案内します。


1.緊急事態宣言前に可能な措置
首相による緊急事態宣言が出されるには至っていない現時点でも、法に基づき、
 ・停留を行うための施設(検疫港や飛行場)の使用
 ・船舶又は飛行機の運航を行う事業者に対する運航の制限の要請等
 ・医療関係者に対する医療等の実施の要請等
が可能です。


2.緊急事態宣言後に可能になる措置
 緊急事態宣言が出されると、その対象とされた区域の都道府県知事は、
 ⑴ 感染を防止するための協力要請等
 ⑵ 土地等の使用
 ⑶ 物資の売渡しの要請等
の各措置を行うことが可能になります。

⑴ 感染を防止するための協力要請等

ア 住民に対する協力要請
都道府県知事は、住民に対し、蔓延防止等のため必要があると認めるときは、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができます。

イ 施設管理者等に対する協力要請
都道府県知事は、学校、社会福祉施設、興行場など多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(以下「施設管理者等」)に対し、蔓延防止等のため必要があると認めるときは、当該施設の使用又は開催の制限や停止等を要請することができます。
施設管理者等が正当な理由がないのにこの要請に応じないときは、都道府県知事は、特に必要があると認めるときに限り、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができます。
都道府県知事は、これらの規定による要請又は指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければなりません。

 
施設管理者等に対する協力要請のポイントは、次の通りです。
① 対象となりうる施設
以下の通り定められており、多数の者が利用する施設が広く対象となっています。

② 既に出されている要請との関係(指示と公表)
 これまでも、例えば埼玉県知事がさいたま市で開催される格闘技イベントについて自粛を要請したなどの例がありますが、本法に基づく要請ではありません。
 本法に基づく要請は、既に出されている要請と比較して、強制権限はなく、従わない場合に刑事罰が科されるわけではないことは同様であるものの、
 ・要請がなされたことそれ自体が公表されること
 ・施設管理者等が正当な理由なくこの要請に応じない場合、当該要請にかかる措置を講ずべきことを指示することができ、指示をしたときは遅滞なくその旨が公表されること
という違いあります。
 
⑵ 土地等の使用
 都道府県知事は、臨時の医療施設を開設するために必要があると認めるときは、土地、家屋又は物資(以下「土地等」)を、当該土地等の所有者及び占有者の同意を得て、使用することができます。
 都道府県知事は、土地の所有者又は占有者が正当な理由がないのに同意をしないときや、その所在が不明であるとき、特に必要があると認めるときに限り、同意を得ないで当該土地等を使用することができます。
   
⑶ 物資の売渡しの要請等
 都道府県知事は、緊急事態措置を実施するため必要があると認めるときは、医薬品や食品、医療機器その他衛生用品、燃料などの物資で精算、集荷、販売、配給、保管又は輸送を業とする者が取り扱う物資の所有者に対し、物資の売渡しを要請することができます。
 都道府県知事は、物資の所有者が正当な理由がないのに売渡要請に応じないときは、特に必要があると認めるときに限り、当該物資を収容することができ、生産、集荷、販売、配給、保管又は輸送を業とする者に対し、その取り扱う物資の保管を命じることができます。
物資の保管命令に従わず物資を隠匿する等した者に対しては、懲役刑又は罰金が科される可能性があります。


3.罰則、制裁のまとめ
以上、私企業に対してなされる可能性がある措置を概観しましたが、都道府県知事からの要請等に対して従わない場合の罰則は、
 ・物資の保管命令に従わず物資を隠匿する等した者に対する懲役刑又は罰金
 ・物資の保管を命じるため等のために必要な立入検査を拒む等した者に対する罰金刑
 ・これらを行ったものが自然人である場合の法人への罰金刑
が定められるのみで、それ以外の場合には科されることはありません。
 
 しかし、上記の施設管理者等に対する施設の利用の制限等に対しては、要請がなされたことそれ自体の公表、正当な理由なく指示に従わなかった場合の公表が定められており、行政機関の要請等への対応には十分な留意と検討が必要です。


※ 法の解釈について、内閣官房から以下の質疑応答集が公開されています。  httpss://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/housei/240626kachoukaigi/siryou3.pdf
※ 法には、今回ご紹介した私企業等に関する定めとは別に、指定公共機関及び指定地方公共機関(医療や輸送、インフラ等に係る指定された一部の私企業等。医師会や製薬会社、電力会社、運送会社等。)が行わなければならない事項が定められています。

 

以 上
文責:亀井俊裕