【column】第1回:民法改正(消滅時効制度)



民法改正:消滅時効制度について

 いよいよ本年4月1日から、改正民法(以下「新法」)が施行されますが、今回の改正により、消滅時効制度に係る規定について大きな変更がありました。

1. 時効期間の統一化

 旧法において、債権の消滅時効の時効期間は、原則として「権利を行使することができる時から10年間」(客観的起算点)とされ、特則として、職業別の1〜3年の短期消滅時効、商行為によって生じた債権について時効期間を5年とするという商事消滅時効が定められています。
これに対し、今回の改正により、職業別の短期消滅時効と商事消滅時効の特則は廃止され、下表のとおり、原則的な時効期間が統一されました(新法166条1項)。同条項は、旧法上の客観的な起算点に加えて、「権利を行使することができることを知った時から5年間」という主観的な起算点を定めた点に大きな特徴があります。売掛金等契約に基づく履行請求権については、通常債権の発生時に債権者がその事実を認識しているため、2つの起算点は一致します。そのため、原則的な時効期間は債務の履行期から5年となります。また、例外として、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則が設けられました。



2. 経過規定
 新法と旧法のどちらが適用されるかにより、時効期間等が異なります。
「施行日前に生じた債権」又は「施行日前に債権の発生原因たる法律行為がされた債権」(主に契約)には、いずれか早いものを基準に旧法が適用され(附則10条1項、同条4項)、どちらにも当たらない場合には新法が適用されます。したがって、時効管理のためには、各債権の発生日またはその発生原因たる法律行為の発生日(契約日)を個別に管理することが必要になります。
 例えば、雇用契約の使用者(会社)が安全配慮義務を怠ったことによって労働災害が起こった場合における労働者の使用者に対する損害賠償請求権については、当該請求権の発生時点が施行日後であっても、雇用契約の締結時が施行日前である場合には、契約日を基準として旧法が適用されます。
 そのほか、施行日前に締結された契約について、施行日後に、合意による契約の更新(自動更新条項がある場合を含む)がされた場合、更新後の契約には新法が適用されます。

3. 労働基準法上の消滅時効期間への影響
 現行法上、従業員の賃金請求権、年次有給休暇請求権及び災害補償請求権の消滅時効期間は2年間、退職手当の請求権の消滅時効期間は5年間とされていますが、民法改正による契約上の債権の時効期間の変更とのバランスを踏まえて、令和2年4月1日から、次のとおり、賃金請求権の消滅時効期間は改正され、それ以外は現行法上の消滅時効期間が維持されます。時効の起算点は、現行法と変わらず「請求権を行使することができる時」からです。
 なお、改正労働基準法は、令和2年4月1日以降に支払期日が到来するものについて適用されます。
①賃金:5年間(但し、令和2年4月1日から当分の間は「3年間」)※「当分の間」の期間は未定
②退職手当:5年間 
③上記以外の請求権(年次有給休暇、災害補償):2年間

以 上
文責:矢野亜里紗